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たんぽぽ日和

ヨネさんの話

この仕事を始めて20年ほど経ちます。

本当に様々な患者さんたち、そのご家族と関わってきました。

 

もちろん、今も関わっていて、あああんな人がいらしたな、こんな人もいらしたな、と人間大好きなたんぽぽさんが、忘れ得ぬ人について書き残しておこうと思い立ち、このブログに書いていこうと思います。

 

最初に書こうと思っているのは、ヨネさんの事。私のはじめての訪問患者さんでした。当時80歳なので、もう鬼籍に入られているでしょうね。

 

ヨネさんと会ったのは、20年前、マッサージの仕事を始めたデイサービスのある病院でした。

ヨネさんは入院患者さんで、リウマチでほぼ寝たきり、医師の同意があると健康保険を使ってマッサージができる、という話をすると、すぐにやってほしい、と言われました。

 

週2回通って、マッサージをしながら色々な話をしましたね。楽しかった。

ヨネさんは苦労人で、少し悲観論者。

「いいかい、あんただから教えておくよ。人間を信じちゃダメだ。みんな抜け目なくてずる賢いからね。あんたなんか、すぐにコロリと騙される。そんなもんだ、と覚えておけば、騙されても損はしない」

よほどお人好しに思われていたのでしょう、こんこんとお説教されたなあ。(^^;)何を話したんだろう。

 

ヨネさんは、美人でした。

「ヨネさん、若い頃騒がれたでしょ?」

というとニヤリと笑って、

「言い寄ってきた人はあったけど、私はお父さん一筋だったのよ」

「ヨネさんのご主人はいつ亡くなったの?」

「生きてるのさ、会えないけどね」

そうなんだ。目が見えなくて、病院にも来なくなって2年たつ、と聞いて驚きました。

「会いたいよ、二人でお茶飲みながら話したいよ」

 

7月に入って、病院の入り口に飾ってある七夕の笹に、

「お父さんとお茶が飲みたい」

というヨネさんの短冊を見て思い立ちました。

看護師長に相談して、

「ヨネさんは退院して、家で暮らせないものですか?」

と尋ねると、

「何回かやってみたことはあるけど、立って車椅子に移乗したりオムツ交換ができれば、家で介護できると思うんだけど」

え?それだけのことで入院してるんだ。当時は病院にはそんな寝たきりの人がいっぱいいました。今では入院期間が限られていますが。

「ヨネさん、家に帰りたい?」

と尋ねると、

「帰りたいよ。何回も頼んでるけど、ダメだって言われてるのさ」

リハビリ頑張って、立っていられるようにすれば家で介護が受けれるという話しをすると、ヨネさんは俄然その気になりました。

 

ヨネさんの、リハビリメニューを作り、介護の人にも協力してもらって、ベッドからの立ち上がりの訓練や柵を使って立ち続ける訓練を始めました。

ヨネさんは、思いの外頑張り屋さんでした。

そのうちに、柵につかまって膝の屈伸をしたり、数歩なら歩けるようにもなりました。オムツはパンツが履けるようになりました。

そして、3ヶ月後に無事退院できる運びに。

「やったね!ヨネさんの頑張りで、お家に帰れるね!」

「ありがとう!おじいさんに会えるのが楽しみさ!」

 

ヨネさんのご自宅には介護用ベッドが入り、在宅ネットワークができていました。

そして、退院後ヨネさんの自宅に行くと、ヨネさんは望み通り、ご主人とテーブルをはさんでお茶を飲んでいました。私にもお茶をすすめてくれて、

「この羊羹は高かったのよ〜」

と茶菓子まで。^o^

でも、私の訪問マッサージの仕事はそこでおしまいでした。

ヨネさんのお家は遠くて、とても自転車で通えない距離だったからです。(T . T)

 

私はヨネさんからいっぱい勉強させてもらいました。目的意識があれば、リハビリは頑張れること、寝たきりは防げることなど。

でも、人は信じちゃいけない、はなあ。いまだにできてないなあ。^o^