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たんぽぽ日和

エピソード③ナオさんの話

 

ずっと更新をサボってましたが、いよいよ思い出に残る患者さんの話、パート3です。

 

イラストは、ナオさん、当時60歳。美人でしょう。

この写真(イラストにしました)は、亡くなる半年前のもので、北海道から親友が訪ねて来ることになり、近くのホテルに部屋をとって数時間過ごした時のもの。(隣は親友の方)

ナオさんはこの日のために洋服を新調し、髪をカットし、おしゃれをめいっぱいして、ヘルパーさんとタクシーに乗ってホテルに行きました。そこからヘルパーさんは一旦帰り、数時間のちに迎えにくるまで、2人はおしゃべりに興じました。楽しかっただろうなあ。

 

ナオさんは、リウマチがひどくなり、まったく歩けないし、手指も左手中指が動くだけの障害者1級の患者さんです。血小板減少症など、他にも病気があり、訪問医師や看護師、ヘルパー、訪問入浴、理学療法士などなど、総勢月に百名ほどの医療や介護関係者が彼女を支えています。もちろんケアマネもいますが、生活全般を管理しているのは、ナオさんです。

もと薬剤師のナオさんは、病気のこと、薬のこと、じつによく勉強していて、知ろうとする気持ちは人一倍。はっきりしていて、頭脳明晰で、しかも人情味に溢れる熱血漢です。

 

すごいなあ、と、とくに感心するのは、ガラケーを2台持っていて(ガラケーでないと操作ができないそう)、指1本で電話、メール、インターネット検索、欲しいものをネット注文して、

生活管理も全て入力していることです。

注文の品が間違っていたり、杜撰な態度をする相手に、

「責任者に代わってください。こんな商品売りつけるなんて、消費者バカにしないで!」

と怒鳴りつけているナオさんを結構見ています。(o^^o)

ナオさんの前では、外国人のヘルパーさんも訪問医も業者さんも同じです。皆んな友だちであり、彼女に協力したいと願い、時に彼女の助言をもらったり、たまに怒りをぶつけられたりと、余計なものを剥ぎ取られて素裸にされてつき合わされてしまいます。

私もそのひとり。ナオさんに魅せられて、大いに振り回されることを楽しんでいましたね。

 

パート2で紹介したヒロさんも、自身の生活を管理して生活を楽しむ方でしたが、ナオさんと決定的に違うのは、ナオさんは生活保護を受けなくても、年金(社会保険と障害者)だけで生活をしていたことでしょう。

ヒロさんは自営業だったので、国民年金しか加入しておらず、それと障害者年金だけでは在宅介護を賄うだけのお金はなかったため生活保護を受けざるをえなかった。ナオさんは、北海道で薬剤師として会社に勤めていたので、社会保険が受けられた。この差は、同じ在宅介護の「金食い虫」(役所がこう思っている)であっても、天と地ほどの差を生んだのだな、と思いました。

 

ナオさんはもちろんお金の管理もしていましたが、収支はだいたいとんとん。

それでも、少し生じるお小遣いを、何に使おうか、楽しそうにネットショッピングしていました。小さなネッカチーフを色違いで見つけたときは、本当に嬉しそうでした。3千円くらいでしたが、センスのいい買い物で、淡い色の布を首に巻くと、色白のナオさんにとても似合いましたっけ。

 

ブラジル、タイ、中国のヘルパーさんたちと話がしたい、と簡単な会話のできる冊子を取り寄せて勉強していました。

「昨日、マリア(ブラジル人のヘルパー)が約束でもないのに飛び込んできて、大変だったのよ。日本人の旦那と大喧嘩した、って。泣き喚くし、ブラジル語で興奮して話すし、なだめるの大変だったわ」と、困ったように、でも何故か嬉しそうに話してくれたこともありました。

 

北海道から上京して、離婚されたお母様とふたりで暮らしたこと、そのお母様を亡くし、やはり車椅子の彼氏と生活したこと、妹が医者で、東北でご主人と開業していること。彼女の語る人生航路はまるで小説のように波乱に満ちたものでした。

 

訪問マッサージを始めて3年目、ナオさんは身体全体の痛みに悩まされます。びわ灸も気功も効かなくなりました。とても苦しかったんでしょうね。ある日訪問すると、いつもより少し明るく言い出しました。

「医者が、手術をすすめるの。それをすると、とても楽になる、って言うのよ」

「でも、血小板が少ないからリスキーじゃない?」

「色々考えた末のことなの。この手術に賭けたいの。きっと元気になって帰ってくるから」

 

でも、ナオさんは帰ってきませんでした。

手術中、大量出血が止まらず、そのまま亡くなってしまったのです。

お見舞いに行った病院でナオさんの死を聞き、その庭で悔しくて泣きました。

 

ナオさんは、手術の前に、お墓を購入していました。無縁の人たちが入る共同墓地です。

「これで安心、誰にも迷惑かけないですむわ」

潔い、ナオさんらしい最期。最後までカッコいい女性でしたね。